人手不足が深刻な外食業界では、特定技能制度を活用した外国人材の受け入れが重要な選択肢になっています。
本ページでは、在留資格「特定技能(外食)」で外国人を受け入れる際に必要な条件やポイントを、飲食店オーナー・企業担当者の方向けに分かりやすく整理しました。
1. 特定技能(外食)とは?
在留資格「特定技能」は、人手不足が深刻な分野で、一定の技能と日本語能力を持つ即戦力人材を受け入れるための制度です。
そのうち外食業分野では、次のような飲食店で働く外国人材を受け入れることができます。
- レストラン
- 居酒屋
- ファストフード店
- カフェ・喫茶店
- フードコート内の店舗 など
特定技能1号(外食)は、原則として通算5年まで在留可能で、
調理・接客・衛生管理など、店舗運営に関わる業務を幅広く担当する即戦力スタッフを想定しています。
2. 外国人材側の主な条件(特定技能1号・外食)
特定技能(外食)として働く外国人には、「技能」と「日本語」の2つの水準が求められます。
2-1. 基本的な前提条件
- 原則18歳以上であること
- 外食業での勤務に支障のない健康状態であること
- 日本の飲食店で継続して働く意思があること
2-2. 技能水準:外食業技能測定試験 or 技能実習2号
外食分野で特定技能1号の在留資格を得るためには、以下のいずれかで外食業の技能水準を証明します。
- ① 外食業技能測定試験(特定技能評価試験)の合格
外食業における基本的な調理・接客・衛生管理・店舗運営に関する知識・技能が問われます。 - ② 外食分野の技能実習2号を良好に修了
外食業の技能実習2号を「良好な修了」と認められた場合、原則として技能測定試験が免除されます。
2-3. 日本語能力:N4レベルが目安
外食分野の特定技能では、次のいずれかで日本語能力を証明します。
- 日本語能力試験(JLPT)N4以上
- 日本語基礎テスト など、同等レベルの試験の合格
オーダーのやり取り、職場での指示、マニュアルの理解、お客様への簡単な対応など、
日常の会話や職場コミュニケーションに困らない程度の日本語力が必要です。
3. 受け入れ側(飲食店・外食企業)の主な条件
特定技能外国人を雇用する店舗・企業は、「特定技能所属機関」として一定の条件を満たす必要があります。
3-1. 事業者側の基本要件
- 飲食店営業許可など、法令に基づいて適正に営業していること
- 労働基準法・最低賃金法・社会保険・労災保険など、各種法令を順守していること
- 過去に入管法違反や重大な不正行為・不正受給などがないこと
3-2. 雇用・労務管理の要件
- 日本人と同等以上の報酬水準
同じ店舗・同じポジションで働く日本人従業員と比べ、著しく低い賃金設定は認められません。 - フルタイムに相当する雇用
一般的に、週30時間以上などの常勤に近い就業時間が想定されています。 - 社会保険・雇用保険の加入
要件を満たす場合は、通常の従業員と同様に各種保険に加入させる必要があります。 - 適切な労務管理
労働時間・残業・休憩・休日などを適正に管理し、サービス残業などが発生しないようにすることが求められます。
3-3. 外食では「派遣」は原則不可
外食分野の特定技能では、基本的に外国人を「派遣社員」として受け入れることはできません。
特定技能外国人は、店舗や運営会社が直接雇用することが前提です。
(※農業や漁業とは異なり、「特定技能×派遣」が認められない分野である点に注意が必要です。)
4. 外食分野で特定技能外国人が従事できる業務
特定技能(外食)では、店舗運営に関わる一連の業務に従事することができます。
4-1. 主な業務の範囲
- 調理業務
仕込み・簡単な調理・盛り付け・提供準備など - 接客業務
オーダーの受付、料理提供、会計補助、片付けなど - 衛生管理
キッチン・ホールの清掃、衛生チェック、ゴミの分別・廃棄など - 店舗運営補助
在庫管理の補助、食材の受発注補助、簡単な記録業務など
いわゆる「キッチンだけ」「ホールだけ」といった分業も現場ではありますが、
制度上は、調理・接客など外食業務全般に対応できる「オールラウンダー」を想定しています。
4-2. 認められない業務のイメージ
- 単純清掃業務だけを行わせる
- 食器洗浄だけ、仕込みだけ、といったごく一部の単純作業のみに専従させること
- 外食業とは無関係な業務(倉庫作業・引越しなど)に従事させること
あくまで外食業の人手不足を補う即戦力社員としての位置付けであることを意識しておく必要があります。
5. 受け入れ準備で押さえたい実務ポイント
5-1. 業務内容・シフトの見える化
- ポジション(キッチン/ホール/洗い場/仕込みなど)ごとの業務を整理して説明
- 1日の流れ(開店準備~ピークタイム~締め作業)を図や表で共有
- シフトパターン(早番・遅番など)と休憩の取り方を明確に
5-2. マニュアル・言葉の工夫
- 写真付きのマニュアルや、作業手順を示したチェックリストを作成
- 専門用語や略語を減らし、なるべく簡単な日本語表現にする
- スタッフ用の「よく使うフレーズ集」(お客様対応・厨房内の指示など)を用意
5-3. 安全・衛生面の指導
- 包丁・火・油・スチームなど、危険要因の扱い方を丁寧に指導
- 食中毒防止のための衛生ルール(手洗い・温度管理・交差汚染防止など)を繰り返し説明
- 労災防止(転倒・火傷・切り傷など)のための注意点を共有
忙しいピークタイムほど安全面のリスクが高まるため、事前の教育と日々の声かけが重要です。
6. 登録支援機関と支援体制
特定技能1号では、外国人に対して生活支援・日本語支援などの「支援計画」を実施する義務があります。
この支援を、
- 受け入れ企業・店舗が自社で行う(自社支援)
- 登録支援機関に委託する(委託支援)
のいずれか、または組み合わせで行うことになります。
6-1. 法定支援の主な内容
- 事前ガイダンス(労働条件・仕事内容・生活ルールの説明)
- 入国時の出迎え・住居への案内
- 生活オリエンテーション(ごみ出し・交通・病院の受診方法など)
- 行政手続き(住民登録・銀行口座開設・携帯電話契約など)の補助
- 日本語学習機会の提供
- 相談・苦情対応(できれば母国語対応)
- やむを得ない事情が生じた場合の転職支援 など
飲食店単独で全てを行うのが難しい場合は、外食分野に実績のある登録支援機関と連携することが現実的です。
7. 特定技能(外食)で受け入れるメリットと注意点
7-1. メリット
- 人手不足の時間帯・ポジションを安定的に補うことができる
- 調理・接客の両方をこなせるスタッフとして育成しやすい
- 多言語対応・インバウンド客へのコミュニケーション強化にもつながる
7-2. 注意点
- 「アルバイト感覚」ではなく、就労ビザを持つ正規の従業員としての受け入れであることを意識する
- 労働時間・残業・休憩などを、法令に基づいて管理する体制が必要
- 特定技能制度のルール(従事できる業務範囲・在留期間など)を理解し、継続的に情報をアップデートする
8. まとめ:特定技能(外食)を活かした店舗づくり
- 特定技能(外食)は、調理・接客・衛生管理など、外食業務全般を担う即戦力人材を受け入れる制度
- 外国人材には、「外食業技能測定試験or技能実習2号」と「日本語(N4程度)」が主な条件として求められる
- 受け入れ側には、日本人と同等以上の処遇・法令順守・支援体制の構築などが必要
- 外食分野では派遣形態は原則不可であり、店舗・企業が直接雇用することが前提
- マニュアル整備・安全衛生教育・生活支援を丁寧に行うことで、長く活躍してくれるスタッフとして育っていく
特定技能(外食)を上手に活用することで、慢性的な人手不足の解消だけでなく、店舗のサービス向上・多国籍なチームづくりにもつながります。
自店のコンセプトや運営体制に合わせて、受け入れ方や育成プランを設計していくことが成功のカギです。
