自動車整備業界では、少子高齢化や若年層の整備士離れにより、人手不足が深刻な課題となっています。
その解決策のひとつが、在留資格「特定技能(自動車整備)」を活用した外国人材の受け入れです。
本ページでは、特定技能(自動車整備)で外国人を受け入れる際に必要な条件やポイントを、自動車整備工場やディーラー、ガソリンスタンド等の事業者向けに分かりやすく整理しました。
これらの業務に加えて、同じ業務に従事している日本人社員が通常行うものと想定される関連業務についても任せることが可能です。ただし、特定技能人材が関連業務のみに従事することは認められないため注意が必要です。
1. 特定技能(自動車整備)とは?
在留資格「特定技能」は、人手不足が深刻な特定産業分野で、一定の専門性・技能を持つ即戦力外国人材を受け入れるための制度です。
そのうち自動車整備分野では、次のような事業所で働く外国人材を受け入れることができます。
- 認証整備工場・指定整備工場
- ディーラー系サービス工場
- 整備ピットを有するガソリンスタンド
- カー用品店等で、法令に基づく点検・整備を行う事業所 など
特定技能1号(自動車整備)は、原則として通算5年まで在留可能で、
自動車の日常点検整備・定期点検整備・分解整備など、整備現場の中核を担う技能者クラスの人材を想定しています。
2. 外国人材側の主な条件(特定技能1号・自動車整備)
特定技能(自動車整備)として働く外国人には、「技能」と「日本語」の2つの水準が求められます。
2-1. 基本的な前提条件
- 原則18歳以上であること
- 自動車整備現場での就労に支障のない健康状態であること
- 日本の自動車整備分野で継続して働く意思があること
2-2. 技能水準:技能評価試験/3級整備士/技能実習2号
自動車整備分野で特定技能1号の在留資格を得るには、以下のいずれかで技能水準を証明します。
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① 自動車整備分野特定技能1号評価試験に合格
一般社団法人 日本自動車整備振興会連合会(JASPA)が実施する試験です。
学科(構造・機能・点検整備の基礎知識など)と実技(分解・組立・調整など)により、日常点検整備・定期点検整備・分解整備を行うために必要な基礎技能が評価されます。 -
② 自動車整備士技能検定試験3級に合格
国家資格である「3級自動車整備士」に合格している場合も、特定技能1号の技能要件を満たします。 -
③ 自動車整備分野の技能実習2号を良好に修了
自動車整備職種の技能実習2号(または3号)を良好に修了している場合、原則として上記技能試験が免除されます。
2-3. 日本語能力:N4レベルが目安
自動車整備分野の特定技能では、次のいずれかで日本語能力を証明します。
- 日本語能力試験(JLPT)N4以上
- 国際交流基金 日本語基礎テスト(JFT-Basic)でA2レベル以上
作業指示の理解、安全に関わる注意喚起、お客様への簡単な説明、報告・連絡・相談など、
日常会話レベルの日本語が求められます。
3. 受け入れ側(自動車整備事業者)の主な条件
特定技能外国人を雇用する事業者は、「特定技能所属機関」として一定の要件を満たす必要があります。
3-1. 事業者としての基本要件
- 道路運送車両法に基づき、原則として地方運輸局長の認証を受けた自動車整備事業場(認証工場等)であること
- 労働基準法・最低賃金法・社会保険・労災保険等の法令を順守していること
- 過去に入管法違反や重大な不正行為・不正受給などがないこと
- 自動車整備分野特定技能協議会の構成員となり、必要な情報提供・協力を行うこと
3-2. 雇用・労務管理の要件
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日本人と同等以上の報酬水準
同じ整備工場・同じ業務に従事する日本人と比べて、著しく低い賃金設定は認められません。 -
フルタイムかつ直接雇用であること
週5日以上・年間217日以上かつ週30時間以上といったフルタイムの就労が原則です。
派遣・請負・アルバイト・パートでの受け入れは不可で、特定技能外国人とは正社員として直接雇用契約を結ぶ必要があります。 -
社会保険・雇用保険への加入
要件を満たす場合は、健康保険・厚生年金・雇用保険などに加入させる必要があります。 -
適切な労務管理
残業・休日出勤・深夜勤務などを含め、労働時間を適正に管理し、過重労働を防止する体制が求められます。
3-3. 自動車整備分野特有のポイント
- 特定技能外国人は、工場認証に必要な「自動車整備士の人数」としてカウントできない点に注意
- 在留申請時に、認証工場であることや協議会構成員であることを示す資料の提出が必要
- 雇用後、特定技能1号から2号への移行時などに備え、実務経験証明書を発行する義務がある
4. 特定技能「自動車整備」で従事できる業務
特定技能(自動車整備)では、自動車の日常点検整備・定期点検整備・分解整備を中心に、関連業務を含めた一定の範囲の作業に従事できます。
4-1. 主な業務の範囲
- 日常点検整備
タイヤの空気圧、灯火装置、ワイパー、ウォッシャー液、エンジンオイル量などの点検・簡単な整備 - 定期点検整備(法定点検)
ステアリング装置、ブレーキ装置、走行装置、動力伝達装置、電気装置、エンジン、排ガス関連装置などの点検整備 - 分解整備・特定整備
エンジン・ブレーキ・サスペンション・ステアリング等の主要部品を取り外して行う整備や、電子制御装置整備(特定整備)に付随する作業
4-2. 関連業務として認められる範囲
- 整備内容の説明や関連部品の販売業務
- 洗車・車内清掃・下回り塗装など、整備作業に付随する業務
- 簡単な受付補助・見積書の作成補助・部品の受発注補助 など
ただし、洗車や清掃だけ、レジだけといった単純作業に専ら従事させることは認められません。
あくまで、自動車整備業務が主であり、その他は「付随する業務」という位置づけになります。
4-3. 認められにくい運用のイメージ
- 実際には整備をさせず、ガソリンスタンドの店頭販売やレジにほぼ専念させる
- 洗車要員・清掃要員としてのみ配属し、整備作業をほとんど任せない
- 自動車整備とは無関係な倉庫作業・製造ラインに従事させる
5. 受け入れ準備で押さえたい実務ポイント
5-1. 配置と業務内容の見える化
- 「ピット作業中心」「車検ライン中心」「一般整備中心」など、担当領域を明確にする
- 1日の流れ(開店準備~点検整備~納車~閉店作業)をタイムラインで共有
- 繁忙期(タイヤ交換シーズン・車検のピーク時)と閑散期の業務イメージを事前に説明
5-2. 安全・品質管理の徹底
- リフト・ジャッキ・電動工具等の安全な使用方法を写真や動画も使って指導
- ヒューマンエラーを防ぐためのチェックリスト運用(締め忘れ・オイル入れ忘れなど)
- お客様の車両・鍵・書類などの取り扱いルールを明文化
5-3. 日本語・接客面のフォロー
- よく使う整備用語+日本語フレーズ集(例:「オイル漏れ」「異音」「試運転します」など)を用意
- お客様対応は、最初は日本人スタッフをメインにし、徐々に簡単な説明から任せていく
- 月1回程度、日本語・接客トレーニングの時間を設けると定着につながる
6. 登録支援機関と支援体制
特定技能1号では、外国人に対して生活支援・日本語支援などの「支援計画」を実施することが義務付けられています。
この支援を、
- 自社が直接行う「自社支援」
- 登録支援機関に委託する「委託支援」
のいずれか、または組み合わせで行います。
6-1. 法定支援の主な内容
- 事前ガイダンス(労働条件・仕事内容・生活ルール等の説明)
- 入国時の出迎え・住居への案内
- 生活オリエンテーション(ごみ出し・交通・病院・コンビニの利用など)
- 行政手続き(住民登録・銀行口座・携帯電話契約など)の補助
- 日本語学習機会の提供
- 相談・苦情対応(できれば母国語対応)
- やむを得ない事情が生じた場合の転職支援 など
整備工場単独で全てを行うのが難しい場合は、自動車整備分野に実績のある登録支援機関を活用するのが現実的です。
7. 特定技能2号(自動車整備)というキャリアステップ
自動車整備分野は、1号だけでなく特定技能2号の対象にもなっており、
熟練した技能を持つ外国人整備士を長期的に雇用できる仕組みが整いつつあります。
7-1. 特定技能2号(自動車整備)の主な特徴
- 在留期間の更新に上限がなく、長期的な就労が可能
- 条件を満たせば家族帯同(配偶者・子)も認められる
- 将来的に永住権取得の要件にカウントできる可能性がある
- 1号と異なり、受け入れ機関や登録支援機関による「支援義務」は求められない
7-2. 特定技能2号になるためのイメージ
- 地方運輸局長の認証を受けた整備工場で、3年以上の実務経験を積む
- 自動車整備分野特定技能2号評価試験に合格する
(または、二級自動車整備士の技能検定に合格している場合など) - 自分で整備内容を判断でき、他の整備スタッフを指導できるレベルの技能・経験を備えていること
特定技能1号の段階から、将来は2号・熟練整備士として活躍してもらう前提で育成することで、
工場全体の戦力アップ・次世代リーダーの確保にもつながります。
8. 特定技能(自動車整備)受け入れのまとめ
- 特定技能(自動車整備)は、自動車の日常点検整備・定期点検整備・分解整備などを担う即戦力人材を受け入れる制度
- 外国人材には、「自動車整備分野特定技能1号評価試験 or 3級整備士 or 技能実習2号修了」と「日本語(N4程度)」が主な条件として求められる
- 受け入れ側には、認証工場であること、日本人と同等以上の処遇、フルタイム・直接雇用、法令順守、支援体制の構築などが必要
- 従事できる業務は、自動車整備が主であり、洗車や販売のみといった単純作業への専念はNG
- 特定技能2号制度を活用すれば、熟練した外国人整備士を長期的に雇用することも可能
特定技能(自動車整備)を上手に活用することで、慢性的な人手不足の解消だけでなく、若手整備士の層を厚くし、将来のリーダー候補を育成することにもつながります。
自社の整備体制や経営方針に合わせて、受け入れ方法やキャリアプランを設計し、「一緒に成長するパートナー」として外国人整備士を迎え入れていきましょう。
