特定技能(建設)で外国人材を受け入れるための基本ガイド
深刻な人手不足が続く建設業界では、特定技能制度を活用した外国人材の受け入れが重要な選択肢になっています。
本ページでは、在留資格「特定技能(建設)」で外国人を受け入れる際に必要な条件やポイントを、建設会社・工務店・協力会社の方向けに分かりやすく整理しました。
あわせて、建設分野で必須となる建設キャリアアップシステム(CCUS)との関係についても詳しく解説します。
1. 特定技能(建設)とは?
在留資格「特定技能」は、人手不足が深刻な分野で、一定の専門性・技能を持つ即戦力人材を受け入れるための制度です。
建設分野も対象となっており、現在は「土木」「建築」「ライフライン・設備」の3つの業務区分に整理されています。
- 土木:道路・橋梁・トンネル・港湾などの土木構造物の新設・改築・維持・修繕に関わる作業
- 建築:建築物の新築・増築・改築・改修・内装・仕上げなどに関わる作業
- ライフライン・設備:電気・ガス・水道などインフラ設備の施工・配管・保守に関わる作業
特定技能1号(建設)は、原則として通算5年まで在留可能で、
現場での施工・補助作業など、建設工事の中核を担う技能者クラスの人材を想定しています。
2. 外国人材側の主な条件(特定技能1号・建設)
特定技能(建設)として働く外国人には、「技能」と「日本語」の2つの水準が求められます。
2-1. 基本的な前提条件
- 原則18歳以上であること
- 屋外作業や高所作業を含む建設現場での就労に支障のない健康状態であること
- 日本の建設分野で継続して働く意思があること
2-2. 技能水準:技能評価試験 or 技能実習2号
建設分野で特定技能1号の在留資格を得るためには、以下のいずれかで建設技能の水準を証明します。
-
① 技能評価試験に合格するルート
・「建設分野特定技能1号評価試験(土木/建築/ライフライン・設備)」に合格
・または「技能検定3級」に合格
学科試験+実技試験により、図面の理解、安全な作業手順など、建設現場で必要な基礎技能が評価されます。 -
② 建設分野の技能実習2号を良好に修了するルート
・建設分野の技能実習2号(または3号)を「良好に修了」している場合、技能評価試験が免除されます。
2-3. 日本語能力:N4レベルが目安
建設分野の特定技能では、次のいずれかで日本語能力を証明します。
- 日本語能力試験(JLPT)N4以上
- 国際交流基金 日本語基礎テスト(JFT-Basic)合格 など
現場での指示・安全確認・報告連絡相談(ホウレンソウ)が日本語で行える程度の能力が求められます。
3. 受け入れ側(建設会社・工務店等)の主な条件
特定技能外国人を雇用する企業は、「特定技能所属機関」として一定の要件を満たす必要があります。
3-1. 建設業者としての基本要件
- 建設業法に基づき、必要な場合は建設業許可を取得していること
- 建設業として適正に経営が行われていること
- 労働基準法・最低賃金法・社会保険・労災保険などの各種法令を順守していること
- 過去に入管法違反や重大な不正行為・不正受給などがないこと
3-2. 雇用・労務管理の要件
-
日本人と同等以上の報酬水準
同じ現場・同じ職種で働く日本人技能者と比べ、著しく低い賃金設定は認められません。 -
フルタイムに相当する雇用
一般的に、週30時間以上などの常勤に近い就労時間が前提となります。 -
社会保険・雇用保険の加入
要件を満たす場合は、通常の従業員と同様に、健康保険・厚生年金・雇用保険等に加入させる必要があります。 -
適切な労務管理
残業・深夜作業・休日出勤などを含め、労働時間を適正に管理し、過重労働が発生しないようにすることが求められます。
3-3. 建設分野では「派遣」は禁止(直接雇用のみ)
建設分野の特定技能では、労働者派遣による雇用は認められていません。
特定技能外国人は、元請・下請の建設業者が直接雇用することが前提です。
- 派遣会社が雇用主となり、建設会社へ派遣する形はNG
- 違反すると、特定技能外国人の受け入れ制限など、重いペナルティの対象となる場合があります。
そのため、「建設分野の特定技能=直接雇用」と押さえておくことが重要です。
4. 建設キャリアアップシステム(CCUS)とは?
建設分野の特定技能を語るうえで欠かせないのが、建設キャリアアップシステム(CCUS)です。
CCUSは、建設現場で働く技能者一人ひとりについて、
- 保有資格
- 社会保険加入状況
- 現場ごとの就業履歴
などを業界横断的に登録・蓄積するシステムで、技能者の「見える化」と適正な処遇・キャリア形成を目的としています。
技能者にはICカード(CCUSカード)が発行され、レベル1〜4の技能レベルが段階的に評価されます。
- レベル1:初級技能者(見習い)
- レベル2:中堅技能者(一人前)
- レベル3:職長として現場に従事できるレベル
- レベル4:高度なマネジメント能力を持つ基幹技能者 等
特定技能外国人も、このCCUSを通じて就業日数・経験・レベルが管理され、将来のキャリアアップにつながっていきます。
5. 特定技能(建設)とCCUSの関係
5-1. 1号特定技能外国人とCCUS登録
- 建設分野で新たに特定技能1号外国人を雇用した場合、企業・本人ともにCCUSへの登録が必須とされています。
- 雇用開始後、できるだけ早くCCUS技能者登録を行い、CCUSカードを発行しておく必要があります。
- 未登録のまま現場に入場させると、行政からの指導・是正の対象となる可能性があります。
CCUS登録によって、「どの現場で・どの工種を・どれくらいの期間」働いたかが蓄積され、
将来のレベルアップや2号特定技能への移行時の「実務経験」の証拠として活用されます。
5-2. 企業(受け入れ側)のCCUS登録
- 受け入れ企業自身も、事業者としてCCUSに登録しておく必要があります。
- 自社の現場に入る技能者のカードを読み取り、正しく就業履歴を蓄積していくことが求められます。
- CCUSの登録状況は、建設特定技能受入計画の認定要件にも関係する重要なポイントです。
5-3. 2号特定技能とCCUS(班長レベルへのステップ)
建設分野には、1号の上位資格として特定技能2号があり、
2号申請時には「班長としての実務経験」などが求められます。
- 建設現場で複数の技能者を指導しながら作業に従事し、工程管理を行う者(班長)としての実務経験
- その実務経験を裏づけるために、CCUSに蓄積された就業日数・就業履歴が使用される
- 職種によっては、CCUSのレベル3(職長レベル)の評価を取得していることが要件となる場合もある
つまり、特定技能1号の段階から、「CCUSで就業履歴を積み上げていくこと」が将来の2号への道につながっています。
6. 建設分野で特定技能外国人が従事できる業務
特定技能(建設)で認められる業務は、建設工事の中核となる作業+その前後の関連業務です。
6-1. 主な作業イメージ(例)
※実際の業務区分は「土木」「建築」「ライフライン・設備」の3つに整理されています。
- 土木工事:とび・型枠・鉄筋・コンクリート工・舗装工・土工 など
- 建築工事:建築大工・内装仕上げ・建具工事・防水工事・左官・タイル・石工 など
- ライフライン・設備:各種配管工事・設備配管・一部電気設備工事 など
これらの中心となる作業に従事することが前提で、
清掃や簡単な片付けなどの関連業務は「付随的に」行うものと考えられています。
6-2. 認められにくい業務のイメージ
- 資材置き場での荷運びだけ、清掃だけ、といった単純作業のみに専ら従事させること
- 建設業とは関係のない工場作業や倉庫作業などに回すこと
あくまで、建設技能者として現場の一員として働いてもらうことが制度のコンセプトです。
7. 受け入れ準備で押さえたい実務ポイント
7-1. 作業内容・現場ルールの明確化
- 担当する工種・作業の範囲を明文化し、本人・現場監督・日本人技能者で共有する
- 安全帯・ヘルメット・保護具の使用ルールを具体的に説明する
- KY(危険予知)活動・朝礼・ミーティングの流れを事前に説明しておく
7-2. 安全衛生教育の徹底
- 足場・高所作業・重機周りなど、危険ポイントを写真や図で分かりやすく説明
- 熱中症・寒さ対策・粉じん・騒音など、建設現場特有のリスクについて周知
- 災害発生時の連絡体制・避難経路・119番通報の仕方などを共有
言葉の壁がある中での現場作業となるため、日本人以上に丁寧な安全教育が必要になります。
7-3. 日本語・コミュニケーション支援
- 現場でよく使う日本語フレーズ集(指示・確認・報告)を配布
- 図・写真・ピクトグラムを使って「見て分かる」マニュアルにする
- 月1回程度の日本語学習サポートや、安全用語の勉強会などを行う
8. 特定技能2号(建設)というキャリアステップ
建設分野には、1号の上位資格として特定技能2号が用意されています。
- 班長クラスとして一定の実務経験があること
- 「建設分野特定技能2号評価試験」や所定の技能検定1級等に合格すること
- 在留期間の更新回数に上限なし
- 要件を満たせば家族帯同(配偶者・子)も可能
ここでも、CCUSに蓄積された就業日数やレベル(特にレベル3)が、実務経験の証拠として重要な役割を果たします。
そのため、1号の段階から、
- 現場に入るたびにCCUSカードを読み取る
- 就業日数・職長/班長としての経験をきちんと蓄積する
といった運用を徹底しておくことが、将来の2号移行の「準備」にもなります。
9. 特定技能(建設)受け入れのまとめ
- 特定技能(建設)は、土木・建築・ライフライン・設備などの建設工事に従事する即戦力人材を受け入れる制度
- 外国人材には、「技能評価試験or技能実習2号」と「日本語(N4程度)」が主な条件として求められる
- 受け入れ側には、日本人と同等以上の処遇・法令順守・適正な労務管理・支援体制の整備が必要
- 建設分野では派遣雇用は不可であり、元請・下請による直接雇用が前提となる
- 特定技能外国人と企業の双方が建設キャリアアップシステム(CCUS)に登録し、就業履歴・レベルを蓄積していくことが重要
- CCUSを活用することで、将来の特定技能2号(班長クラス)へのステップや処遇改善にもつながる
特定技能(建設)と建設キャリアアップシステムを上手に活用することで、
現場の人手不足解消だけでなく、若手技能者の育成・班長候補の確保にもつながります。
自社の工事内容や体制に合わせて、受け入れ方やキャリアパスを設計し、「一緒に成長するパートナー」として外国人技能者を迎え入れていきましょう。
