特定技能(飲食料品製造業)で外国人材を受け入れるための基本ガイド
飲食料品製造業の現場では、少子高齢化や三交替・シフト制などの影響により、慢性的な人手不足が続いています。
その解決策のひとつが、在留資格「特定技能(飲食料品製造業)」を活用した外国人材の受け入れです。
本ページでは、特定技能(飲食料品製造業)で外国人を受け入れる際に必要な条件やポイントを、食品工場・惣菜工場・製パン工場・食品スーパー等の事業者向けに分かりやすく整理しました。
1. 特定技能(飲食料品製造業)とは?
在留資格「特定技能」は、人手不足が深刻な特定産業分野で、一定の専門性・技能を持つ即戦力外国人材を受け入れる制度です。
そのうち飲食料品製造業分野は、酒類を除く飲食料品の製造・加工・安全衛生に従事する外国人材を対象としています。
- 食肉・水産加工工場
- 惣菜・弁当・冷凍食品などの製造工場
- 製パン・製菓工場、製造小売(パン屋・ケーキ屋など)
- 飲料・茶・コーヒーなどの製造工場(ただし酒類は対象外)
- 食品スーパー・総合スーパーのバックヤード(店内製造部門) など
特定技能1号(飲食料品製造業)は、原則として通算5年まで在留可能で、
ライン作業・仕込み・包装・衛生管理など、食品製造現場の中核を担う技能者レベルの人材を想定しています。
2. 外国人材側の主な条件(特定技能1号・飲食料品製造業)
特定技能(飲食料品製造業)として働く外国人には、「技能」と「日本語」の2つの水準が求められます。
2-1. 基本的な前提条件
- 原則18歳以上であること
- 立ち仕事・シフト勤務などを含む食品製造現場で働くための健康状態であること
- 日本の飲食料品製造業で継続して働く意思があること
2-2. 技能水準:飲食料品製造業特定技能1号技能測定試験 or 技能実習2号
飲食料品製造業分野で特定技能1号の在留資格を得るには、以下のいずれかで技能水準を証明します。
-
① 飲食料品製造業特定技能1号技能測定試験に合格
・一般社団法人外国人食品産業技能評価機構(OTAFF)が実施する試験です。
・学科:食品安全・品質管理、一般衛生管理、製造工程管理、HACCP、労働安全衛生など
・実技:図やイラストを用いた判断問題や、作業計画の立案など、現場で必要な技能を問う内容 -
② 飲食料品製造業分野の技能実習2号を良好に修了
・同分野の技能実習2号(または3号)を「良好に修了」している場合、原則として上記技能試験が免除となります。
2-3. 日本語能力:N4レベルが目安
飲食料品製造業分野の特定技能では、次のいずれかで日本語能力を証明します。
- 日本語能力試験(JLPT)N4以上
- 国際交流基金 日本語基礎テスト(JFT-Basic)でA2レベル以上
現場の指示・注意事項の理解、衛生ルールの説明、簡単な報告・連絡・相談ができる程度の日本語力が求められます。
3. 受け入れ側(食品工場・小売等)の主な条件
特定技能外国人を雇用する企業は、「特定技能所属機関」として一定の要件を満たす必要があります。
3-1. 事業者としての基本要件
- 日本標準産業分類上、「飲食料品製造業」等に該当する事業を行っていること
- 食品衛生法・労働基準法・最低賃金法・社会保険・労災保険等の法令を順守していること
- 過去に入管法違反や重大な不正行為・不正受給などがないこと
- 農林水産省所管の食品産業特定技能協議会に加入し、必要な報告・協力を行うこと
3-2. 雇用・労務管理の要件
-
日本人と同等以上の報酬水準
同じ事業所・同じライン・同じ作業内容で働く日本人と比べて、著しく低い賃金設定は認められません。 -
フルタイムかつ直接雇用であること
原則として、週30時間以上のフルタイム就労が前提です。
派遣・請負といった形での雇用は認められておらず、事業者が直接雇用する必要があります。 -
社会保険・雇用保険への加入
要件を満たす場合は、健康保険・厚生年金・雇用保険等に加入させる必要があります。 -
適切な労務管理
シフト制・夜勤・繁忙期などを含め、労働時間管理・残業管理を適正に行い、過重労働を防ぐことが求められます。
4. 特定技能「飲食料品製造業」で従事できる業務
特定技能(飲食料品製造業)では、酒類を除く飲食料品の製造・加工・衛生管理に関わる業務全般に従事できます。
4-1. 主な業務の範囲
- 原材料の前処理
解凍・カット・計量・味付け・下ごしらえなど - 製造ラインでの加工・調理
成形・加熱・冷却・充填・包装前の加工など - 包装・表示・梱包
パック詰め・ラベル貼付・箱詰め・トレー詰めなど - 衛生管理
器具・設備の洗浄・殺菌、作業場の清掃、記録の記入、HACCPに基づくポイント管理の補助など - バックヤードでの製造(小売業の店内製造部門)
スーパーや量販店の惣菜・精肉・鮮魚・ベーカリー部門等での製造作業
4-2. 関連業務として認められる範囲
- 原材料の受入れ・検品・保管・在庫管理補助
- 製品の出荷準備・出庫・店舗への納品補助
- ライン周辺の清掃・ゴミの分別搬出など、製造に付随する業務
ただし、清掃だけ・配送だけ・レジだけといった単純作業に専ら従事させることは認められていません。
あくまで、飲食料品の製造・加工が「主」であり、その他は「付随業務」という位置づけになります。
4-3. 対象外となる業務のイメージ
- 酒類(ビール・日本酒・焼酎など)の製造工程に専ら従事させること
- 食品製造工場ではなく、単なる倉庫作業や一般的な物流業務に従事させること
- 飲食店のホール接客など、外食分野に該当する業務
5. 受け入れ準備で押さえたい実務ポイント
5-1. 作業内容・ライン構成の見える化
- 「前処理」「加工」「包装」「出荷」など、工程ごとに業務内容を整理して説明する
- 1日の作業の流れ(出勤~準備~作業~片付け~退勤)を図やフローチャートで共有
- 繁忙期(お盆・年末・キャンペーン時)と通常期の違いも事前に説明しておく
5-2. 衛生・安全教育の徹底
- 手洗い・手袋・マスク・帽子など、個人衛生のルールを丁寧に教える
- 異物混入防止の基本(私物持ち込み禁止、ポケット空、アクセサリー禁止など)
- 機械設備・ナイフ・高温設備・薬品等の取り扱いルールと危険ポイントの共有
- HACCPやチェックリストの意味を、難しい専門用語を避けてやさしい日本語で説明
5-3. 日本語・コミュニケーション支援
- 「よく使う日本語+イラスト」の掲示物(現場での指示・注意・禁止事項など)を作る
- 多国語ピクトグラムで、トイレ・更衣室・休憩室などの案内表示を分かりやすくする
- 月1回程度、衛生ルールや安全用語をテーマにした簡単な勉強会を行う
6. 登録支援機関と支援体制
特定技能1号では、外国人に対して生活支援・日本語支援などの「支援計画」を実施することが義務付けられています。
この支援を、
- 企業が自ら行う「自社支援」
- 登録支援機関に委託する「委託支援」
のいずれか、または組み合わせで行います。
6-1. 法定支援の主な内容
- 事前ガイダンス(労働条件、仕事内容、生活ルールの説明)
- 入国時の出迎え・住居への案内
- 生活オリエンテーション(ごみ出し・交通・病院・コンビニの利用など)
- 行政手続き(住民登録・銀行口座・携帯電話契約など)の補助
- 日本語学習機会の提供
- 相談・苦情対応(できれば母国語での対応)
- やむを得ない事情が生じた場合の転職支援 など
食品工場はシフト制・24時間稼働なども多いため、勤務外の生活サポートを登録支援機関と連携して行うケースが一般的です。
7. 特定技能2号(飲食料品製造業)というキャリアステップ
飲食料品製造業分野も、制度改正により特定技能2号の対象となりました。
2号は、より高度な技能を持つ人材を長期的に雇用するための在留資格です。
7-1. 特定技能2号(飲食料品製造業)の主な特徴
- 在留期間更新に上限がなく、長期就労が可能
- 条件を満たせば家族帯同(配偶者・子)も認められる
- 特定技能1号と比べて、より高度な技能・実務経験が求められる
7-2. 2号へのイメージ
- ラインリーダー・班長として、複数の作業者を指導しながら生産管理を行っていること
- 農林水産省が定める飲食料品製造業分野特定技能2号技能試験への合格(予定・実施内容は今後の告示により変動)
- HACCPや品質管理、設備管理などについて、現場を任せられるレベルの知識・経験があること
特定技能1号の段階から、「将来的には班長候補として育成する」意識で育てていくことで、
工場全体の安定稼働と人材定着につながります。
8. 特定技能(飲食料品製造業)受け入れのまとめ
- 特定技能(飲食料品製造業)は、酒類を除く飲食料品の製造・加工・衛生管理に従事する即戦力人材を受け入れる制度
- 外国人材には、「飲食料品製造業特定技能1号技能測定試験 or 技能実習2号修了」と「日本語(N4程度)」が主な条件として求められる
- 受け入れ企業には、食品産業特定技能協議会への加入、日本人と同等以上の処遇、フルタイム・直接雇用、法令順守、支援体制の構築が必要
- 洗車・清掃・レジなどの単純作業だけに専念させる運用はNGで、あくまで食品製造が主たる業務
- 制度改正により特定技能2号も視野に入り、将来的には班長・リーダーとして長期的に活躍してもらうことも可能
特定技能(飲食料品製造業)を上手に活用することで、人手不足の解消だけでなく、現場の技能継承や品質レベルの安定にもつながります。
自社の製造ラインや勤務形態に合わせて、受け入れ方法や教育プランを設計し、「一緒に成長するパートナー」として外国人材を迎え入れていきましょう。
