高齢化や担い手不足が深刻な日本の農業では、特定技能制度を活用した外国人材の受け入れが重要なテーマになっています。
本ページでは、在留資格「特定技能(農業)」で外国人を受け入れる際に必要な条件やポイントを、農家・農業法人の方向けに分かりやすく整理しました。
さらに、特定技能の農業分野で特徴的な「派遣形態」での受け入れについても解説します。
1. 特定技能(農業)とは?
在留資格「特定技能」は、人材確保が困難な分野で一定の技能と日本語能力を持つ即戦力人材を受け入れるための制度です。
農業分野では、次のような業務に従事する外国人を受け入れることができます。
- 耕種農業全般:栽培管理、農産物の集出荷・選別など
- 畜産農業全般:飼養管理、畜産物の集出荷・選別など
特定技能1号(農業)は、原則として通算5年まで在留可能で、現場の一員として農作業の中核を担う人材を想定しています。
2. 外国人材側の主な条件(特定技能1号・農業)
特定技能(農業)として働く外国人には、「技能」と「日本語」の2つの水準が求められます。
2-1. 年齢・健康・基本条件
- 原則18歳以上であること
- 農作業に支障のない良好な健康状態であること
- 農業分野で継続して働く意思があること
2-2. 技能水準:農業技能測定試験 or 技能実習2号
農業分野で特定技能1号の在留資格を得るためには、以下のいずれかで農業の技能水準を証明します。
- ① 農業技能測定試験(特定技能評価試験)の合格
耕種農業や畜産農業に関する基礎知識・作業手順・安全衛生などが問われます。 - ② 農業分野の技能実習2号を良好に修了
農業技能実習2号を「良好な修了」と認められた場合、原則として農業技能測定試験が免除されます。
2-3. 日本語能力:N4レベルが目安
農業分野の特定技能では、次のいずれかで日本語能力を証明します。
- 日本語能力試験(JLPT)N4以上
- 日本語基礎テスト など、同等レベルの試験の合格
現場の指示や安全確認、作業日誌の記入など、日常的なやり取りに困らない程度の日本語力が求められます。
3. 受け入れ側(農家・農業法人等)の主な条件
特定技能外国人を雇用する側は、「特定技能所属機関」として一定の条件を満たす必要があります。
3-1. 農業経営体としての基本要件
- 適正に農業経営を行っている農家・農業法人等であること
- 労働基準法・最低賃金法・社会保険・労災保険など、各種法令を順守していること
- 過去に入管法違反や重大な不正行為・不正受給などがないこと
3-2. 雇用・労務管理の要件
- 日本人と同等以上の報酬水準
同じ作業・同じ条件で働く日本人と比べて、著しく低い賃金設定は認められません。 - フルタイムに相当する雇用
通常、週30時間以上などの常勤に近い就業時間が想定されています。 - 社会保険・雇用保険の加入
条件を満たす場合は、通常の従業員と同様に各種保険に加入させる必要があります。 - 適切な労務管理
労働時間・残業・休憩・休日などを把握し、法令に基づいた管理を行うことが求められます。
3-3. 農業特定技能協議会への加入
- 農業分野で特定技能外国人を受け入れる場合、農業特定技能協議会への加入が求められます。
- 協議会を通じて、情報提供・指導・実態把握などが行われます。
3-4. 受入れ形態:直接雇用と派遣形態
農業分野での特定技能外国人の受け入れ方法には、次の2パターンがあります。
- ① 直接雇用形態
農業者(農家・農業法人など)が特定技能所属機関となり、外国人と直接雇用契約を結ぶパターンです。
指揮命令は農業者が行い、自社の従業員として農作業に従事します。 - ② 派遣形態
労働者派遣事業者が特定技能所属機関となり、外国人と雇用契約を結んだうえで、
農業者との間で労働者派遣契約を結び、農業者のもとに派遣するパターンです。
指揮命令は派遣先である農業者が行います。
特定技能制度全体としては派遣形態は原則NGですが、農業と漁業に限って例外的に派遣が認められているという点が特徴です。
4. 農業分野で特定技能外国人が従事できる業務
特定技能(農業)で認められる業務は、主に「耕種農業全般」と「畜産農業全般」です。
4-1. 耕種農業全般でできる業務
- 播種・定植・施肥・除草などの栽培管理
- 農産物の収穫・運搬
- 集出荷・選別・箱詰めなど
- ハウスや機械・資材の点検・簡易な管理
このうち、栽培管理の業務が必ず含まれていることが条件です。
選別や箱詰めだけを行わせるような、単純作業に専ら従事させる形は認められていません。
4-2. 畜産農業全般でできる業務
- 牛・豚・鶏など家畜の飼養管理(給餌・給水・清掃・健康観察など)
- 乳牛の搾乳、畜産物の収穫・運搬
- 畜産物の集出荷・選別
- 畜舎・設備の清掃や簡単な管理
畜産の場合も、飼養管理が業務に含まれていることが必要であり、
選別作業だけ・清掃だけなど、関連業務のみを担当させる形は認められません。
4-3. 関連業務について
- 農畜産物の加工・運搬・販売など、関連業務に付随的に従事することは認められます。
- ただし、「関連業務だけ」を主として行わせることはできません。
5. 受け入れ準備で押さえたい実務ポイント
5-1. 作業内容・シーズンの説明の徹底
- 年間の作業スケジュール(播種・定植・収穫・出荷ピークなど)を分かりやすく整理して伝える
- 繁忙期と閑散期の労働時間の差、休日の取り方なども事前に説明
- 耕種・畜産ごとに、1日の作業の流れを図や写真で示すと理解が深まりやすい
5-2. 安全衛生・労働環境の整備
- 農機具・トラクター・コンバインなどの安全な使い方の指導
- 農薬の取り扱い・保管場所・防護具の使用方法の説明
- 熱中症対策(こまめな水分補給・休憩・服装など)
- 冬季の防寒対策や雪国での除雪作業ルール
言葉の壁がある中での農作業は、安全対策を「いつも以上に丁寧に」伝えることが重要です。
5-3. 生活面のサポート
- 住居(社宅・寮・近隣アパート)の確保や契約サポート
- 役所手続き(住民登録・マイナンバー・保険・年金など)のサポート
- 買い物場所・病院・バスの利用方法など、地域生活情報の案内
- 地域行事や交流の場を紹介し、孤立を防ぐ工夫
6. 登録支援機関と支援体制の構築
特定技能1号では、外国人に対して生活支援・日本語支援などの「支援計画」を実施することが義務付けられています。
この支援を、
- 農家・農業法人などの所属機関が自ら行う「自社支援」
- 登録支援機関に委託する「委託支援」
のいずれか、または組み合わせで行う形となります。
6-1. 法定支援の主な内容
- 事前ガイダンス(契約内容・労働条件・生活ルールの説明)
- 入国時の出迎え・住居への送迎
- 生活オリエンテーション(ごみ出し、交通ルール、病院の受診方法など)
- 行政手続き(住民登録・口座開設・携帯契約など)の補助
- 日本語学習機会の提供
- 相談・苦情対応(できれば母国語対応)
- やむを得ない事情が生じた場合の転職支援 など
自ら行うには負担が大きい場合、「農業分野に実績のある登録支援機関」と連携することがポイントになります。
7. 農業分野における派遣形態のポイント
特定技能制度では原則として「派遣雇用」は認められていませんが、農業分野(と漁業分野)に限って例外的に派遣形態が認められています。
ただし、自由な派遣が何でもOKというわけではなく、派遣元・派遣先ともに厳格な条件を満たす必要があります。
7-1. 派遣元(労働者派遣事業者)側のポイント
- 一般の労働者派遣事業許可を受けていること
- 農業分野の特定技能派遣に必要な要件(農業関連事業者であること、協議会加入など)を満たし、
法務大臣と農林水産大臣の協議を経て「適当」と認められた事業者であること - 特定技能所属機関としての届出・誓約書・支援体制を整えていること
7-2. 派遣先(農家・農業法人)側のポイント
- 労働基準法や社会保険関係法令を順守していること
- 特定技能外国人を充てる予定の業務について、過去1年以内に同種業務の労働者を不当に解雇していないこと
- 過去1年以内に、派遣先の責任により行方不明となった外国人がいないこと
- 安全で衛生的な労働環境を整え、派遣労働者にも日本人と同様に配慮していること
7-3. 派遣形態を活用するメリットと注意点
- メリット
- 農繁期のみ集中的に人手を確保しやすい
- 複数の農家で人材をシェアしやすい
- 大規模経営体で一度に多人数を確保しやすい
- 注意点
- 派遣元・派遣先の双方に厳格な要件があり、事前準備が必要
- 指揮命令は派遣先が行うため、作業内容・安全指導・労務管理の責任は派遣先にも重くかかる
- 技能実習の延長感覚ではなく、「雇用」としての意識と体制整備が必須
8. 特定技能(農業)受け入れのまとめ
- 特定技能(農業)は、耕種農業・畜産農業の現場で即戦力として働く外国人材を受け入れる制度
- 外国人材側には、「農業技能測定試験or技能実習2号」と「日本語(N4程度)」が主な条件として求められる
- 受け入れ側には、日本人と同等以上の処遇・法令順守・農業特定技能協議会への加入・支援体制の整備などが必要
- 受入れ形態は直接雇用と派遣形態の2パターンがあり、派遣は農業ならではの選択肢
- 栽培管理・飼養管理など中核作業が業務に必ず含まれていることが重要で、関連業務だけを任せることはできない
- 安全衛生・生活支援・日本語サポートを丁寧に行うことで、長く安心して働ける環境づくりにつながる
特定技能(農業)を上手に活用することで、繁忙期の人手不足解消だけでなく、将来の中核人材育成にもつながります。
自社の経営スタイルや地域の実情に合わせて、受け入れ体制や支援の仕組みを整えていくことが成功への第一歩です。
